ヘボン式ローマ字の成立
異文化の言葉にふれたとき、まずはそのことばを正確に聞きとろうと試み、ついで自分の母国語の文字で書き留めようとすることから始まる。開国に伴いどっと流入した西洋人がそれぞれの母国語の綴りを基本として日本語を記述していた。この方法は、同じ英語を話していても個人によっても記述方法が異なることとなる。
日本語は階層や出身地により言葉が違い、その人の接することのできる日本人の種類により日本語の結果が異なってしまう。幕末は現在のようにコミュニケーションが行き交い、放送が共通の言葉の認識を高めていっている時代ではない。
このような中で、プリンストン大学の学長に何を学ぶにも語学力が基礎となることを教えられたへボンは「生きた教師」からていねいにしっかりと聞き取ることから始めた。
このヘボンの苦闘は新潮選書『ヘボンの生涯と日本語』望月洋子著に詳しいのでこちらを参照いただきたい。
今回、ヘボンがヒアリングを重ね工夫したローマ字の変遷を「ヘボン式ローマ字」への道としてアーカイブスのトップページから参照できるようにした。ヘボンは手稿・初版・再版と苦闘しながらも発音重視で書き取っている。「日本人とっては「ん」は一つの音と意識しているが、実際には地名でも新橋と新宿は「ん」の音が異なり、新橋はmの音であり、新宿はnの音であるためヘボンはShimbashiとShinjukuとして正確に聞き取っており、現在も駅名はその様に表示されている。また初版のころは「くゎ」という音が存在した。現在「ヘボン式ローマ字」といわれている表記方式は1886年(明治19)発行の『和英語林集成』第三版の記述法による。ここに記載されたローマ字は、日本語の平易化を唱えて「羅馬字会」を1885年(明治18)に結成したローマ字論者たちの提案を入れて、発音重視の方針を少し変更したものである。『和英語林集成』各版の序章(Introduction)には、日本語の発音と文法事項についてヘボンの分析が述べられている。
このデジタルアーカイブスでは、各版を検索中にも右下のリンクから参照することができるので、検索にあたっては、各版の時代背景などが書かれた序文(Preface)も合わせて一読していただき、その理解を深めていただきたい。